02
翼はなんとなく視線を移す。
入ってきたのは車椅子に乗った少女と若そうに見える女性、そして中まで車椅子をひく駅員だった。
(目が見えないのか?)
翼は思った。
先ほどから目を開けずに閉じている。
車椅子を駅員と若そうに見える女性が少女を電車の中に入れようとしているがなかなかうまくいかないでいるらしい。
(しょうがないな)
けだるさを残しながらも動く。
「ちょっといいですか?」
車椅子を持ち上げ、駅員と協力して中に入れる。
「すみません、ありがとうございます。」
少女が翼に目を閉じたまま微笑む。
(きれいな声だな。透き通っている。)
翼は思った。
「助かりましたよ、本当にありがとうございますね。」
若そうな女性はうれしそうに微笑む。
「いえ、僕は別に。」
若そうな女性は翼をほんの少し見やってしゃべりだす。
「今から、予定なんて空いていませんか?」
「え?」
「何かお礼がしたいんです。」
「いや、別にかまいませんよ。」
(めんどくさい)
翼は思った。
(突然何を言うんだ)
表情に笑顔は無い。
「今からこの子のコンサートがあるんですげれど、是非見に来てくださいませんか?」
若い女性は少女に愛おしいそうに肩に手を置く。
翼は迷った。ぶらぶらと外に気晴らしに来ていただけなので予定は無い。
それに、この若そうな女性だけで、この少女を運ぶことが困難にみえた。
(仕方ないな)
けだるさを残しながらも決断する。まだコンサートには興味をもたないでいるため内容を聞こうともしない。
「どこまでですか?一人じゃ彼女を車椅子ごと運ぶのは大変でしょう?」
「わ!来てくれるのですね。」
若そうな女性は少し大きな声を出して喜ぶ。
「用事らしい用事がないし。いいですよ。」
(めんどくさい)
そう思ったが、この二人と一緒にいる時間は決していやではなかった。
若そうな女性。黒髪で瞳の色が薄い茶色。
見た目は30代に見え、少しふくよかな体つきをしている。
大人の女性らしい服装をしているが、雰囲気は明るく可愛らしい。
大人と子供。相反するところを持ち合わせている。顔が整っていて、愛くるしい
美人である。
変わって少女。
まさに美少女である。
亜麻色の髪に、桜色の薄い頬。桃色の唇。透き通るように白い肌に可憐な容姿。
すらっとした体系。着ている長いワンピースもシンプルなのに彼女を引き立たせていた。
微かにいい香りもする。シャンプーのにおいだろうか。
「次は光が丘、次は光が丘。」
アナウンスが入る。
「ここでおりるんですけれど、いいですか?」
若そうな女性は笑顔で言う。
「美羽、おりるわよ。」
優しく、愛おしそうに語りかける。
「お母様、大丈夫ですか?いつも心配で・・・。」
少女は母を心配している。
(仲が良い親子だな)
この二人にそう印象付けられた。
「安心してほしい、僕もいるから。君のお母さんには無理させないよ。」
自然と優しくなる声。
「本当にすみません、ありがとうございます。」
少女は瞳を明けることなく微笑んだ。まるで大輪の花が開くかのように。
トクン。
高鳴る鼓動。
翼は少女に魅了されていた。
少女からは微かに香るシャンプーのにおいがしていた。